2017.05.18
経済産業省が「2016年の電子商取引に関する市場調査結果」を2017年4月24日に公表しました。
この調査結果によると、2016年のBtoC-EC市場規模(物販系以外も含む。)は15.1兆円と前年比9.9%の伸び率で推移しているとのことです。
今回は、調査結果報告書の中から、物販系分野における国内EC市場の現況や市場のトレンドなど物流に関連するテーマを中心にポイントをまとめました。
2016年の物販系分野のEC市場規模は、8兆43億円。
分野別に見てみると、旅行予約サービスなどの「サービス系分野」や、電子書籍や有料音楽配信などの「デジタル系分野」と比べて、物販系分野が最も市場規模が大きく、また伸び率も最も高く推移しています。
下記の表は、2013年から2016年の物販系分野のEC市場規模とEC化率の推移をまとめたものです。
直近3年間の「電子商取引に関する市場調査結果」(経済産業省)をもとに当社作成
この4年間で、市場規模・EC化率ともに堅調に拡大していることがわかります。
2014年の消費増税の影響によって、2014年の伸び率が13.5%、2015年の伸び率が6.4%と上下動がありますが、過去3年間の年平均成長率は約10%となっています。
報告書では、2016年のEC拡大の要因を、次のようにまとめています。
“BtoC-ECの市場規模が15兆円を突破した。2010年の市場規模は7兆7,880億円であり、6年間で約2倍に拡大した計算になる。この間の我が国のインターネット人口はほぼ横ばいであり、また個人消費が大きく増えたわけでもない。そのような中、順調にBtoC-EC市場が拡大した要因には、ネット上での販売商品の多様化、市場参加者(=売り手)の増加、物流事業者による宅配時間の大幅な短縮化、スマートフォンの普及、SNSによる情報流通量の増大化等が挙げられる。そのような要因によって人々のライフスタイルにネットショッピングが着実に浸透した結果と言えよう。”
(出典:「2016年の電子商取引に関する市場調査結果」P26)
市場拡大の要因の中でも、最も影響が大きいものは、スマートフォンの普及と考えられます。
スマートフォン経由で購入された市場規模は、前年比28.7%増の2兆5,559億円で、全体に占める割合は31.93%です。
ネット人口は普及率80%を超えてすでに飽和状態にある中で、スマートフォンの普及によって一人当たりのネット利用時間が増加していることが、市場全体を成長させている大きな要因と考えられます。
最近では、電車の中で買い物を済ませる“デンナカショッピング”なんて言葉も出てきていますし、「情報収集はスマートフォンで、購入はPCで」というケースもありますので、間接的な効果も含めると、その影響は計り知れません。
EC業界の市場トレンドとして、次の4つが挙げられています。
A)オムニチャネル
B)スマートフォン
C)物流
D)決済
この4つのキーワードは、2015年の調査結果でもトレンドとして挙げられており、項目としては大きな変化はありませんでした。
(2015年の市場トレンドには「CtoC-EC動向」が含まれていましたが、2016年の報告書では、「国内CtoC-EC市場実態」の章が追加され、市場トレンドの項目からは消えました。)
市場トレンドとしての「物流」について、
“BtoC-ECでは、物流品質が消費者によるEC参加事業者の評価を左右する重要な要素の一つである。”としたうえで、次のようにまとめております。
“出荷時間が確定し実際に出荷するまでの間に消費者によって注文がキャンセルされることも多いという。また消費者は注文した商品を“早く受け取りたい”、“都合のよいタイミングで受け取りたい”という願望があるため、膨大な商品を消費者に個別に届ける労力が物流事業者には求められる。BtoC-ECを含む小売業全般における物流施策の論点は、注文を受ける前段階としてのメーカー、卸業者、物流事業者、小売事業者による在庫管理のあり方と、受注後の商品の効率的かつスピーディな配送体制のあり方に大別される。このふたつのどちらかが欠けると物流品質を保つことはできない。よって関係事業者間で物流能力向上に向けた企業努力が実行されている。”
(出典:「2016年の電子商取引に関する市場調査結果」P30)
ECを含む小売業全般における物流への取り組みは、①在庫管理のあり方と②配送体制のあり方の2つに大別されます。
在庫管理のあり方については、“大型の物流センター設備への事業投資によって物流能力を向上する取り組み”としてセンターの大型化のトレンドがあるとしつつも、大型化に伴って“火災や震災が発生した場合その規模が大きいほど被害が甚大になるため、予めコンティンジェンシープランの整備も重要”としてBCP対策の重要性にも言及しています。
情報としての在庫情報の一元化や物理的な在庫の集約によって、効率化やコストの最適化が図られている。
一方で、アスクルで発生した物流センター火災のように、物流センターの集約・大規模化によって非常時のリスクも増大することから、リスクを受け入れた上でBCP対策をとるのか、リスクをヘッジするために拠点を分散するのかの経営判断が必要になります。
「スピーディな配送体制のあり方」とは、つまり「リードタイムのあり方」ということです。
「早く受け取りたい」、「都合のよいタイミングで受け取りたい」という消費者のニーズは、本質的には「都合のよいタイミングで受け取りたい」というニーズに集約できます。
「都合のよいタイミング」が、「明後日」であったり、「金曜日までに」であったりするということであり、リードタイムが短いほど、そのニーズに応えられる可能性が高くなる=ビジネスチャンスが広がります。
リードタイムに関して「短縮化」のほかに、もう1つ重要なポイントがあります。
それは、商品の購入前もしくは購入手続き中に、「自分が欲しいタイミングまでにその商品が入手できるのか?」が明示されていることです。
お客様が受注確定メールを受けてから、「あれ?間に合わない・・・キャンセル。」というパターンは、消費者・EC事業者の双方にとって負担になるだけです。
「●●時までに注文があった商品は、●日までに発送する。」という基準を設けて、確実に実行できる体制を整備し、それを顧客に事前に明示することで、コンバージョンの向上とカート離脱率やキャンセル発生率の減少につながります。
EC市場の利便性が向上し、結果としてEC市場が拡大しているという事実は、消費者にとっても、市場関係者にとっても喜ばしいことです。
一方で、EC支援サービス・システムが充実し、誰でも簡単にネットショップを開業することが可能になったことで、市場参加者は増加しており、競争環境はますます厳しくなってきています。
ECサイトにおける提供価値は、“製品(品質・価格)+サービス(物流・対応)”です。
スマートフォンの普及になどによる消費者の購買行動の変化、宅配サービスの現状、これらの市場環境を踏まえて、自社の物流サービスはどうあるべきか。
ライバル企業との競争に打ち勝つ“物流戦略”を立てることが、今後のECビジネスの成長へとつながるのではないでしょうか。