2017.07.14
「館内物流」という仕組みをご存知でしょうか。
2017年3月、国土交通省が「物流を考慮した建築物の設計・運用について~大規模建築物に係る物流の円滑化の手引き~」を策定するなど、今、建物の内部における物流にも注目が集まってきています。
国土交通省が策定したこの手引きは、一定の物流量が発生する建築物において、人の流れだけでなく、モノの流れも考慮した設計“Design for Logistics”を推奨することで、交通や環境への影響を抑えることを期待して作成されたものです。
今回は、物流に関する課題解決のひとつとして導入が広がっている「館内物流」について、当社の事例も交えてご紹介いたします。
大規模商業施設に入居されている、アパレル、雑貨・日用品などの小売事業者の方も、事業環境を正しく認識するために、お読みいただければと思います。
館内物流とは、ビルや大型商業施設など一つの建物に入っている複数のテナントに対して、一括して荷物の配送・集荷を行い、建物へのスムーズな貨物の搬入や屋内移動の効率化を図る仕組みです。
施設内の各テナントに貨物をお届けする運送会社から、施設内のラストワンマイルの配送業務を館内物流事業者が受託することで、施設内及び施設周辺のさまざまな課題を解決するというもので、近年の大規模商業施設においては、導入されるケースが多くなってきています。
トラックヤードで荷受け
荷受けした荷物を仕分け場所へ移動
仕分け中の荷物
館内を台車で移動し、テナントに荷物をお届け
各テナントへ荷物を納品
店頭での荷物の受け渡し
館内物流は、施設だけでなく、施設を利用するお客様、入居するテナント、施設周辺の地域社会、運送会社、それぞれにとってメリットのある仕組みです。
具体的には、次のようなものが導入効果として挙げられます。
館内物流を導入していない施設においては、施設内の荷物は、運送会社の各ドライバーが個別に各店舗まで運びますが、館内物流では、これを施設の物流スタッフが一括して行います。
専用のユニフォームを着た施設の物流スタッフが施設内を巡回するため、さまざまなドライバーが施設内を行き来することが無くなり、施設のイメージアップにつながります。
ドライバーなど、部外者の入館を制限するため、施設のセキュリティーが向上します。
また、物流スタッフがユニフォームを着て施設スタッフとして館内を巡回するため、常に監視の目が行き届き、防犯効果にも期待できます。
さらに、「台車は押すのではなく、引いて移動する」といったように、施設内の配達時には、安全を考慮した細かなルールが設定されており、お客様との衝突や設備の破損などの事故を防止できます。
施設名 | 「iias高尾」 |
---|---|
敷地面積 | 約97,000m2 |
店舗数 | 120店舗(飲食店含む) |
納入台数 | 2トン車約30台/日 |
貨物量 | 約700ケース/日 |
「iias高尾」は、2017年6月、東京都八王子市にオープンした総店舗数120店舗の大型複合商業施設です。
大和ハウス工業(株)が開発し、大和情報サービス(株)が施設の運営管理を担当。大和物流が、館内物流を手掛けています。
館内物流の導入基準は、一般的に100店舗超が目安とされていますが、iias高尾では、当初導入の予定がありませんでした。
しかし、iias高尾が所在する高尾駅周辺は、八王子市の中でも道路整備が遅れており、慢性的に渋滞が発生している地域。警察からの渋滞対策への要望も強く、近隣にも配慮するため、館内物流の導入が決定しました。
この事例で特徴的なのが、館内物流とインフォメーション業務をセットで、館内物流事業者(大和物流)が受託したところです。
これにより、物流スタッフとインフォメーションスタッフの連携が可能になり、例えばお客様の案内や迷子の捜索などを、物流スタッフが担当したり、手荷物預かりや商品発送といた物流業務を、インフォメーションカウンターで受けることも可能になりました。
もちろん館内物流業務についても、納品車両の混雑解消や、各テナントへの安全で効率的な配送を実現。
管理責任者を常駐させる体制をとったことで、イレギュラーな案件やトラブルへの対応もスムーズになり、施設側からも、運送会社からも好評を得ています。
館内物流は、施設内のラストワンマイルを請け負う役目であり、女性や高齢者など運転免許を持たない人材でも配送を担うことができます。
トラックドライバーの人材不足や、宅配取扱個数の急増による宅配クライシスが叫ばれている現代の時代背景にマッチしたサービスですので、物流にまつわる課題解決策のひとつとして、今後も大規模商業施設を中心に導入が広がっていくでしょう。