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役立ちコラム

失敗しない物流センター移転プロジェクトの進め方

2018.06.15

前回のコラム「人手不足・EC拡大時代の物流センターの選び方ー3つの重要ポイント」では、物流センターの新設・移転に関する立地選定を中心とした考え方の重要な3つのポイントをご紹介しました。

今回のコラムでは、物流センターの新設・移転プロジェクトに着手する際に、プロジェクトを失敗させないための進め方、具体的なスケジュールとプロセス、注意すべきポイントについてご紹介いたします。

物流センターの移転時に発生する不具合の例

新設・移転など、新たに物流センターが稼働を開始するときには、様々なトラブルが発生するものです。

具体的には次のようなトラブル・失敗事例が、物流センターの新規立ち上げ時に頻繁に発生しています。

  • 保管、作業スペースが足りない
  • ピッキング等のオペレーションが間に合わず出荷が遅れる
  • どこに何があるか分からない
  • 作業員のトレーニング不足
  • システム連携トラブルによるセンター業務の停止

このようなトラブルが発生した場合、オーダーがあっても商品が出荷できない、なんとかマンパワーで運用するといった応急処置が必要になります。
多くの時間とコストが発生するだけでなく、お客様や営業部門に大きなご迷惑をおかけし、これまでに培った信頼を失うといった大きな代償を負う危険性があります。

2017年10月に、ヨドバシカメラの通販物流センターにおいて、移転作業時にトラブルが発生し、1週間以上の期間、配達が遅延する状態が続いているというニュースも話題となりました。

<参考リンク>

物流センター移転計画の全体スケジュールと各フェーズの留意事項

そのような物流センターの移転PJにかかるトラブル・リスクの発生を最小限に抑えるためには、移転決定から本稼働までのスケジュールをどのように組むかというスケジュール設計と、計画に応じた準備の進捗や必要な修正対応を行うスケジュール管理が最も重要といえるでしょう。

物流センター移転時の全体のスケジュールと、本稼働までのフェーズを下図のとおり5つに分類し、各フェーズにおける留意事項を紹介していきます。

1. マスタープラン策定フェーズ

マスタープラン策定フェーズは、センター移転に関する基本計画を検討するフェーズで、プロジェクトの成否を決めると言っても過言ではない、非常に重要なフェーズとなります。
現在の入出荷実績データに基づく現状分析と課題の洗い出しだけでなく、将来の事業計画を踏まえたプランの策定が求められます。

  • ボリュームの試算
    プラン策定時の物量把握時には、現行の物量ではなく、将来の販売計画を踏まえた物量を把握しなければなりません。
  • ブラックBOXの解消
    物流センター運営において、ブラックBOXは必ず付きまとうものです。
    特に、アウトソーシング先の物流会社の変更が伴う場合は、その引き継ぎも含めてブラックBOXの解消を荷主側と物流会社側の双方で協力して対策する必要があります。
  • 移転時期の検討
    移転時期が繁忙期にあたってしまうと、拠点立ち上げ時の混乱は必至となります。移転スケジュールの検討時には、繁忙期を避けた移転計画を練っておくことが大切です。
    あらかじめ現拠点の契約書類に目を通しておき、解約予告期間の取り決めなども確認しておく必要があります。

2. 運用設計フェーズ

運用設計フェーズでは、新しい拠点に移行するための運用計画を策定します。
保管・作業などにかかるレイアウト設計、入出荷能力などの設定、人員投入計画の立案、ミスや障害が発生した際のバックアップ体制などを検討します。

  • センター内の保管・作業設計
    物流センター内の保管設計に不備があるとオーバーフローが、作業設計に不備があると出荷残が発生してしまいます。事前の数値検証とシミュレーションによる予防措置が必須となります。
  • 生産性とタイムスケジュール
    各業務工程の生産性を読み間違えると配置人員に過不足が生じ、タイムスケジュールが崩れて残貨(出荷できない貨物)が発生します。バッチ単位でのタイムスケジュール検証も必要です。

3. システム・設備の準備フェーズ

システム・設備の準備フェーズでは、毎日のオペレーションを効率化・最適化する情報システムの設計・開発、ベンダー選定・導入準備などを行います。一般的に、新センターの立ち上げに失敗する原因のおおよそ8割程度は情報システムに起因するといわれています。

  • WMS開発
    稼働後に伝票が出ないなどのトラブルが1つ発生するだけで、大幅なスケジュール遅延となり、現場の混乱を引き起こします。
    新センターの立ち上げ後、スムーズに安定稼働できる運用体制を実現するためには、新拠点でのシステムのテスト期間は十分に設けておきましょう。

4. 採用・トレーニングなどの稼働準備フェーズ

稼働準備フェーズは、新拠点へ配置される作業員の募集、採用した作業員のトレーニング期間です。
人材不足の影響で応募が少ないことを考慮し、長めに採用・トレーニング期間を設定しておくべきです。
ロボットやマテハンを導入する場合も、採用・トレーニングのための期間はテスト作業期間を含めて最低でも3ヵ月は見ておく必要があります。

  • 作業員の教育
    作業員の教育を怠ると生産性と品質が低下します。立ち上げまでのスケジュール遅れによる教育不足は頻繁に発生するので要注意です。
  • 在庫移管
    新拠点をスタートするにあたって、在庫移管は最も大事なポイントです。商品がどこにあるかわかるように出し側と受け側ともに保管場所の共有をしましょう。また、出荷前の棚卸しによる棚整理も重要です。

5.新拠点と旧拠点との並行稼働フェーズ

並行稼働フェーズでは、一定期間、既存センターでのシステムやサービスを同時運用し、新拠点でのシステム運用などに問題がないか比較検証しながら、業務移管を進め、移管リスクを可能な限り低くします。
コストの重複は発生しますが、立ち上げ不具合発生時のバックアップにもなります。

  • 並行稼動期間
    並行稼働期間は、従業員にとってはOJT形式の準備期間となります。並行稼働期間を設けて業務移管を段階的に進めることで、立ち上げ時の混乱を最小化し、安定稼働に向けた現場定着をより効率的に進めることができます。

深刻な人手不足は新拠点での人員募集にも影響大

物流業界の人手不足はますます深刻化しており、近年では移転先のセンターに必要な作業員の採用にも苦戦するケースが増えてきています。

数年前なら1ヵ月前に募集をかければ応募があったものが、最低でも3ヵ月前に募集しないと人が集めきれないのが現状です。

では賃金をアップすれば人材が集まるのかというと、そうでもありません。

働き手側は「無理な仕事には応募しない」、「施設の充実度やアクセスの良さを重視する」といった傾向が強く、人材確保はお金だけで解決できる問題ではなくなってきています。

また、人手不足は物流業界だけの問題ではありません。

システム設計・構築・テストなどの作業期間でも、システムメーカー側の人手不足の影響も出てきており、無理な残業などを避けるために移転期間のリードタイムが以前より2~6ヵ月も伸びてしまうというケースも少なくありません。

新拠点での稼働を早期に安定稼働させるためには、こうした人手不足の影響を加味して、移転プロジェクトを入念に検討することが望ましいといえるでしょう。

まとめ

物流センターの移転プロジェクトの進め方について、全体スケジュールおよび各フェーズで留意すべきポイントをお伝えいたしました。

物流センターの移転プロジェクトは、長期にわたる事前の準備、立ち上げ時の瞬間的な負荷増大など、非常に大きな負荷がかかるものです。

プロジェクトを、適切にマネジメントしながら無理なく進めるためには、物流センター運営の委託先である物流会社と企画段階から情報を共有しながら、協力して進めることが最も重要です。

現在は、物流会社だけでなく、物流システム・マテハン機器メーカーも、みな同様に人手不足に悩んでいるのが実態ですので、昔のように、マンパワーでなんとかできる時代ではありません。
荷主側の要望に対して「なんでもやります」、「大丈夫です、なんとかします」などと安請け合いのような返答をする会社には、慎重に対応するべきでしょう。

顧客の要望を実現するために、やれる方法を検討し、提案する。しかし、できないことはできないとしっかり主張し、その根拠を提示する。そのうえで、荷主側の経営戦略にしっかりコミットできる打ち手を一緒に考えてくれる会社こそ、信頼のおけるパートナーではないでしょうか。

物流センター移転プロジェクトの推進にあたっては、本コラムで紹介したポイントを参考にしていただき、より良い物流システムの構築にチャレンジしていただければと思います。