2018.02.02
大和物流のお役立ちコラムをご覧いただき、ありがとうございます。
最近、貨物輸送の一部をトラックから鉄道に切り替える「モーダルシフト」が改めて注目されているのをご存じでしょうか。
それを裏付けるように、「慢性的な赤字が続いていたJR貨物の鉄道事業が、2017年3月期の決算で24年ぶりに黒字転換した」というニュースも出ています。
「モーダルシフトって、何だったっけ?」
「なんで今さらモーダルシフトが熱いの?」
「荷主企業が取るべき対策は?」
このような疑問にお答えするため、時流を踏まえたモーダルシフトの最新動向、国内企業の取り組み事例などをご紹介します。
モーダルシフトとは、トラックによる貨物輸送を大量輸送が可能な海運もしくは鉄道に転換することをいいます。
当初は地球温暖化対策の一つとして取り上げられてきましたが、最近ではトラックドライバー不足対策として改めて注目が集まるようになりました。
日本における鉄道輸送の担い手として存在するのが日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」)です。
日本全国に約8,000kmの鉄道網を有し、毎日約600本の貨物列車を運行。貨物輸送に必要なコンテナは約70,000個を保有しています。定時発着率は約95%と世界でもトップクラス。
各業界の荷主企業が期待する「安定輸送」というミッションに確実に応える信頼性で、モーダルシフトを牽引しています。
JR貨物が発表した「平成29年3月期決算の概要」によると、平成29年3月期の連結決算において、鉄道ロジスティクス事業の営業利益が15億円の黒字。鉄道輸送へのモーダルシフトが再注目されたことにより、コスト削減の効果もあって20年以上も赤字続きだった鉄道ロジスティクス事業が、ようやく黒字化を達成したようです。
「平成30年3月期中間決算の概要」を見ても、売上高は前期比3.1%増、営業利益は▲6億円から+0億円へと6億円の収益改善によって黒字化を達成するなど、業績向上の勢いは継続しているようです。
トラックドライバーは、企業規模に関わらず拘束時間が長時間化しやすいという特性があります。
そのため、若い世代がドライバーという職種を敬遠する現状があり、長距離運行を中心にドライバー不足にますます拍車がかかるといった悪循環につながっています
ドライバー不足の深刻化によってトラック輸送コストも上昇傾向にあることから、トラックから鉄道輸送への転換を検討せざるをえないというコスト面の課題もあるようです。
そのような中で、最近では、トラックドライバーの長時間労働の改善のため、モーダルシフト化とあわせて、トラックによる長距離輸送を複数のドライバーで分担する「中継輸送」への取り組みにも注目が集まっており、一部事業者で運用がスタートしています。
ここからは、以前、私が経験した鉄道輸送へのモーダルシフト化の事例をご紹介します。
あるメーカーのベンダーである荷主が、メーカー向けの納品を鉄道輸送へのモーダルシフト化したことにより、Co2排出量とコストの両方を削減できた事例です。
当時のモーダルシフトは、環境問題への対応が主目的で、メーカー企業が環境負荷の軽減を目的にサプライチェーン全体の物流を見直し、調達先のベンダー各社にモーダルシフトを要望する動きが活発でした。
しかし、モーダルシフト化を検討する中で、トラック輸送と比較してリードタイムが大幅に伸びるという課題が浮き彫りになりました。
それを打破したのが、納品先工場の近隣に在庫拠点としてVMI(Vendor Management Inventory)センターを構築し、そこへ鉄道輸送で在庫を補充するという物流システムの提案でした。
モーダルシフト導入後の全体フロー
導入前は、メーカーがベンダーに発注をした際、10tトラックに60%程度の積載率でもメーカーの希望納期に間に合わせるためトラックで輸送していました。直接工場へ納品するためスピードは早いものの、積載効率のバラつきは、ときとして原価増にもつながり大きな課題でした。
モーダルシフト導入後は、ベンダーのVMIセンターに在庫を補充する仕組みに変わったので、5tコンテナに積載率100%(現実的な限界値の意味での100%)で輸送することができます。
メーカーの工場からの発注にも即座に対応できる体制になりました。
出荷地点の積み込みの様子
モーダルシフトは、幹線の運行距離が500km以上の輸送距離がないと採算が合わず、コストが割高になってしまう場合があります。
この事例では、モーダルシフト化した輸送距離は京都-静岡間の500km未満でしたが、VMIセンター構築により幹線輸送の積載率アップとラストワンマイルの効率的な配送体制がポイントとなり、コストダウンが可能に。
また、京都の工場周辺にコンテナ配送を依頼できる通運会社とコンテナターミナルが隣接していたという環境による好条件も要因となり、結果的に、トータルの物流コストとCo2排出量の両方を削減することができました。
地球環境への負荷低減や労働力不足対策に有効なモーダルシフトですが、推進を阻む課題も多くあります。
「急な出荷量の増減に対応できない」
「トラックに比べて輸送コストがかかる」
「リードタイムが遅くなる」
といった、ネガティブ要素が障壁となっているようです。
そのほかにも、
「在庫拠点を設けることで倉庫費用という新たな経費項目が発生することが社内で認められない」
「リードタイムの延長によって、部品在庫金額が増加することは容認できない」
といった荷主企業内の物流に対する意識や経営方針によって検討が進まないこともありました。
鉄道輸送へのモーダルシフトによって、「労働力の効率化」「コスト・CO2削減」が可能になりますが、「リードタイム」が長くなるといったトレードオフも発生します。
モーダルシフト化を検討する場合、荷主企業は一部のコストが増加することだけに囚われず、環境問題・労働者不足への対応も含めた全体最適の視点や考えをもつ必要があります。
近年、アパレル・ファッション業界では、製品のバックグラウンドにある「生産環境の健全性」や「地球環境への負荷」などを重要視する「エシカルファッション」や「フェアトレード」が注目を集めています。
モーダルシフト推進は、地球環境への負荷軽減、労働者不足への対応など、まさに現代の社会課題に適応した選択肢であり、今後ますます拡大していく可能性が大きいと考えられます。
このような時代背景を踏まえると、持続可能な事業・サービスの一環として、荷主企業は物流会社とのパートナーシップによって、率先してモーダルシフト化に取り組むべきと言えるでしょう。
サステナブルな物流システム・サプライチェーンの構築に向けて、今一度、自社の物流の見直しを検討してはいかがでしょうか。