2017.09.22
自社商品の保管先やECの出荷代行の委託先を選定されている物流ご担当者さまは、「倉庫業法」をご存知でしょうか?
「倉庫業法?聞いたことない」
「聞いたことはあるけど、内容はよく知らない」
倉庫業法と聞いて、このような反応の方も多いことと思います。
倉庫業法は、倉庫利用者の利益を保護するための法律ですので、利用者となる荷主企業にとっても、ポイントを理解しておくことは有益といえます。
そこで今回は、倉庫業者(物流会社)を利用する荷主企業の物流担当者の方に向けて、倉庫業法の概要と、これだけは押さえておいていただきたい!と思うポイントを、ご紹介します。
貨物用トラックには、白色ナンバーの「自家用トラック」と、青色(緑色)ナンバーの「事業用トラック」があることは、ご存知の方も多いと思います。
実は倉庫も、これと同じように「自家用倉庫」と「営業倉庫」の2つに大別されます。
この「営業倉庫」についてのルールを定めたものが、倉庫業法です。
倉庫業法の立法趣旨は、倉庫業法第1条で次のように規定されています。
(目的)
第1条 この法律は、倉庫業の適正な運営を確保し、倉庫の利用者の利益を保護するとともに、倉庫証券の円滑な流通を確保することを目的とする。
つまり、倉庫業法とは、『倉庫業者(物流業界)に対して、倉庫業を営む上で守るべきルール・基準を設けることで、倉庫業者を利用する荷主企業が不利益を被らないように保護するための法律』です。
※ 倉庫証券については、本コラムでは割愛します。
倉庫業法の第1条の条文に“倉庫業の適正な運営を確保”とありますが、ここでいう「倉庫業」とは、『倉庫で物品を預かるサービス(有償)』をいいます。
ただし、付随的に行われるような保管サービスは例外として除かれます。
例えば、クリーニング屋さんがクリーニング後の品物を保管していて、持ち主が長期間受け取りに来ないため、クリーニング屋さんが保管料金を請求する場合、保管することを主目的としてサービスを行っているわけではないので、「倉庫業」には該当しません。
第2条(定義)
2 この法律で「倉庫業」とは、寄託を受けた物品の倉庫における保管(保護預りその他の他の営業に付随して行われる保管又は携帯品の一時預りその他の比較的短期間に限り行われる保管であって、保管する物品の種類、保管の態様、保管期間等からみて第六条第一項第四号の基準に適合する施設又は設備を有する倉庫において行うことが必要でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)を行う営業をいう。
上記のクリーニング屋のような例外を除いて、倉庫で預かることを業として営む場合は、倉庫業法の規制対象になります。
倉庫を利用する側が押さえておくべき倉庫業法のポイントは、次の2点です。
1つ目は、倉庫業は登録が必要な事業であるということです。
倉庫業は、“登録制の事業”であって、倉庫業法に基づき国土交通大臣の登録を受けた倉庫だけが営業することを許されています。
そして、倉庫業の登録を受けるためには、倉庫業法で定められた様々な基準を満たしていなければなりません。
このような基準を課すことで、倉庫業界が健全に発展していくことを担保しているわけで、「登録を受けている倉庫=各基準を満たしている倉庫」と認識することができます。
倉庫業法では、登録を受けた営業倉庫以外で倉庫業を営業することを禁止していますが、現実的には倉庫や事務所に空きスペースがあれば誰でも簡単に営業することができてしまいます。
そのため、倉庫業の登録を受けていない倉庫や事務所などで倉庫業に該当するサービスを提供している事業者が一定数存在するという点を認識しておくべきです。
※ 賃貸借契約によって、場所を貸すだけであれば倉庫業には該当しませんが、貨物に対する保管責任を負ったサービスの提供は倉庫業法に抵触します。
営業倉庫と自家用倉庫には、多くの違いがありますが、特に重要な項目は次の3つです。
①営業倉庫の施設・設備は、一般建築物より厳しい基準をクリアしている
②営業倉庫には「倉庫寄託約款」が定めてある
③営業倉庫では、貨物の火災保険は倉庫業者が付保する
各項目の内容について、個別に説明していきます。
倉庫業法では、倉庫業を営む倉庫の施設・設備について、倉庫の外壁や床の強度、耐火・防火などの性能などに関する基準が定められています。
この基準は、建築基準法や消防法などの一般の建築物と比べて厳しく定められており、火災・水濡れ・カビ・虫害などの事故が発生しないように万全が期されています。
例えば、火災を例に見てみると、営業倉庫における火災の発生件数は、営業倉庫以外の倉庫と比べて、著しく少なくなっています。
倉庫業の登録を受けていない倉庫は、防火・防災・防犯などの観点から、外形的な基準がないため、ハード面のリスクが高いといえます。
倉庫業法の登録を受けている事業者は、倉庫寄託約款を定め、国土交通省に届け出ています。
「約款」とは、サービス利用者に対して、あらかじめ定型的に定められた契約条項のことです。
つまり、契約書を締結しなくても、倉庫保管サービス利用に関する最低限のルールが、標準的に決められているため、なにかトラブルや事故があったときには、この約款に基づいて処理することとなります。
国土交通省では、「標準倉庫寄託約款」を制定していますので、営業倉庫の登録を受けている多くの倉庫事業者は、この「標準倉庫寄託約款」を約款として定めて、届け出ています。
倉庫業の登録を受けていない事業者に貨物を寄託する場合、契約書を締結しなければ、民法・商法などの取り決めの他には、何の取り決めもない状態でサービスを利用することとなります。
また、契約書を締結して寄託した場合においても、契約書に記載のない事項については、明確な取り決めがない状態となりますので、その点についても十分に留意しておかなければなりません。
前述のとおり、倉庫業者は、国土交通省に届け出た“倉庫寄託約款”に基づき営業しています。
多くの倉庫業者が採用している“標準倉庫寄託約款”では、「倉庫業者は自己の負担で荷主のために火災保険を付保しなければならないこと」が定められています。
自家用倉庫を自ら賃借し、貨物を保管する場合は、貨物の火災保険は自ら付保しなければなりません。
もし、寄託先の倉庫が倉庫業の登録を受けていない場合においては、寄託先の倉庫業者が、貨物の火災保険を付保しているとは限りませんので(倉庫寄託約款に基づいて営業していないため)、必ず火災保険の加入状況を確認すべきでしょう。
また、倉庫業の登録を受けた営業倉庫は、火災の発生確率が一般の建築物と比べて極めて低いことから、営業倉庫特約として、火災保険料が一般の建築物より安くなっています。
コスト面においても、トータルのコストを正確に把握したうえで、委託先を選定するべきといえます。
倉庫業法について、荷主企業側が押さえておくべきポイントをご紹介しました。
繰り返しになりますが、倉庫業法は、「荷主を保護するためにある法律」ですので、法律の趣旨や主な規制内容を理解しておくことが、自らを護ることにつながります。
昨年、オフィス用品通販大手の物流センターで大規模火災が発生し、倉庫における火災リスクが顕在化しました。
この火災事故においては、各種メディアでも大々的に報道されましたが、委託先の倉庫が倉庫業法に違反して営業を行っていたりした場合、荷主がコンプライアンスを問われ、非難を浴びるおそれもあります。
そのような事態にならないためには、荷主企業においても倉庫業法を理解したうえで委託先を選定するべきであるといえるでしょう。
営業倉庫の登録を受けている倉庫の場合は、事務所などに倉庫寄託約款や倉庫業の登録内容(倉庫の種類など)などが掲示されていますので、倉庫を見学する際にも確認することができます。
倉庫業者に寄託する際は、その倉庫が倉庫業法における営業倉庫の登録を受けているかどうか、最低限確認しておくべきでしょう。